医師を志されたきっかけと開業までの経緯について教えてください。
生命科学に興味があったので、付属高校から医学部に進学しました。医学部6年生のとき、英国のエジンバラの英会語学校に1か月通った際、進路について考えるきっかけがありました。英国での暮らしを経験し、南米や東南アジアからやってきた医師と話しているうちに、彼らが豊かな時間を過ごしていると感じました。そして、病気を治すのでなく予防する、生活を楽しむことを広めたいと思いました。人々の健康増進を進めるためには、行政の大きな組織の力が必要ですので、卒業前に厚生省(現・厚生労働省)の医系技官の資格を取りました。ただ、卒業して直ぐに入省するのではなく、臨床研修を終えるまで待ってもらいました。
卒業、国家資格合格後の病院での研修の場として、当時同級生のほとんどは大学の付属病院を選んでいました。大学病院では専門的な病気、特別な患者さんを中心に診療することになります。私は専門として希望する小児科の他に内科、外科、産婦人科の研修もでき、よくある病気の臨床経験も得られるように、聖路加国際病院で2年間お世話になりました。
ただ、研修終了するころになると一人一人の患者さんと接する時間が楽しいことに気づき、官僚としての仕事をやるよりも臨床で日々患者さんと向き合っていくことにしました。 その後、大学の医局に入れてもらい市立病院、国立病院での勤務を経験した後、父が開業した診療所で平成11年から一緒に診療を始めました。病気の予防と健康生活の啓蒙は、今でも関心の高いテーマです。平成13年から青葉区医師会の公衆衛生部を担当させてもらい、青葉区民のみなさんと医師会員のために仕事をさせていただいています。
診療方針について教えてください。
小児科の診療所はお子さんやご両親の駆け込み寺となるように、来てもらいやすいことが望まれます。さらに来るだけで楽しく元気になるところにしたいと考えました。待合室は窓が大きく陽射しが入って明るく、広さを感じていただくために大空をイメージした壁紙になっています。パステル調の優しい空色で、「くまのプーさん」と仲間たちが、風船にぶら下がっています。身体の調子が悪いと落ち込むものですが、少しでも晴れやかな気持ちになっていただきたくて、このような空間にしました。
診療の際はできるだけお子さんを怖がらせないようにし、来ると辛いことが治るのだとわかってもらいたいと思っています。そして、お母さんたちには気軽に相談に来て欲しいと考えています。たとえば年齢に応じた予防接種のしかた、病気にかかったときのご家庭での対処法、薬の使い方などいろいろ尋ねてください。私も3児の父親ですので、子育てのアドバイスもできます。近くの動物園、公園やイベントなどの案内もしています。診療所から帰る時には、親子ともに元気になっていただきたいと思います。
東北大震災の際ボランティアで現地に行かれたそうですが、そのときのエピソードをお聞かせください。
震災後、とにかくなんでもいいので誰かの役に立ちたいと思いましたが、今までに経験もなく単身で出向いてもどうしたらよいかわかりませんでした。「タウンニュース」で「こどもの国」を拠点として宮城県気仙沼市でボランティア活動をしている方々の存在を知り、医師として参加したい旨をお伝えしたところ、快く迎え入れてくださいました。これまで現地には7-8回ほど赴いていますが、医療行為よりむしろ生活面でのサポート、スタッフなどの健康管理をしてきました。現地の方にとっての最重要課題は、「普通の生活に戻ること」で、早く震災前の日常に戻れるように支援することが大切です。震災の半年後くらいに気仙沼市の小児科の先生と会食をする機会がありましたが、被災地の健康管理について当時から「子どもの生活習慣病が心配だ」と言われました。多くの支援物資の食品はカロリーが高く塩分も多い一方、お子さんが体を動かす場所がなくなり、これが肥満につながっているのではないかというお話でした。まず体育館が避難場所として使われていましたし、学校のグラウンドには仮設住宅が建てられています。里山で遊ぼうとしても、外部から来た不審者の心配があるそうです。震災から2年くらいたってから、子供の肥満や生活習慣病が多く見られるという報告が学会でされていました。同じような震災がいつこの地で起こるかわかりません。災害に備えての体制はしっかり整えておきたいものです。
病気に負けない健康な身体を作るために、先生はどのようなことを指導されていますか?
まずは年齢に応じた予防接種を早く受けてください。日本で提供されている各種予防接種は、有効性と安全性が確認されているものですので、安心して受けて良いと思います。また病気に負けない方法にはいろいろありますが、それよりも病気になったときの対処法の方が重要で、まず体調が悪くなったら早く休んでいただくよう指導しています。とにかく無理をさせないことです。「子供を甘えさせているのでは?」という指摘があるかもしれませんが、病気の時くらいは甘えさせてあげてください。お子さんが体調不良の時は、お母さん自身も、無理をせずにゆっくり休んでいただくことが大切です。
診察で心がけていることと地域のみなさまへのメッセージをお願いします。
優しく丁寧に診察して安心してもらえるよう心がけています。また診断のヒントになるお話をなるべく多くうかがうようにしています。お子さんが辛そうにしている時には、お父さんから診察を急ぐよう言われることもありますが、お話をしてもらって得られる情報はとても重要です。たとえば「お腹が痛い」とお子さんが訴えられたとき、痛みの様子や程度、痛む場所はどこか、事前に何を食べたか、ぶつけたりしなかったかどうか、などをお尋ねします。本人にしかわからないことですが、お子さんですからなかなか言いたいことをうまく伝えられません。言い方を変えたり、発言を助けながら問診します。もちろんお母さんがたに観察して、記録しておいてもらうことも大切です。病状は変化するものなので、症状が変わったらまた受診して下さい。
地域のみなさまには、住みやすく暮らしやすい青葉区をよりよい地域にするよう、力を合わせてがんばりましょうとお伝えしたいと思います。私自身5歳の時からこの地で育ち、とても楽しい子ども時代を過ごせたので、みなさんにも良い思い出を作っていただきたいと考えています。
青葉区医師会は、毎年11月3日の青葉区民まつり、健康フェスティバルに参加しています。健康相談、予防接種相談、医師会やメディカルセンターの案内をしていますので是非お出かけ下さい。
※上記記事は2015.5に取材したものです。
情報時間の経過による変化などがございます事をご了承ください。
松岡医院 小児科 松岡 誠治 院長 SEIJI MATSUOKA
- 出身地: 横浜市
- 趣味: うずら飼育。孵化したばかりの雛はとてもかわいいですよ。最近はランニングも楽しんでいます。
- 愛読書: 金色のガッシュ!!
- 好きな映画: ナイトメアー・ビフォア・クリスマス
- 好きな音楽: ブライアン・アダムス、コリー・ハート(1980年代のカナディアン・ロック)
- 座右の銘: 情けは人の為ならず
- 好きな場所: バンクーバー(カナダ)